主の晩餐の奥義 ロバート・ブルースの説教

  • 主の晩餐の奥義 ロバート・ブルースの説教
主の晩餐にあずかる意味、目的、その効果は何か?
宗教改革期に一大争点となった聖餐論。
1589年にセント・ジャイルズ教会にてブルース牧師が語った5篇の説教。
400年以上、スコットランドで読み継がれる古典的名著。

1590年に最初に刊行されてから、エディンバラ大学の歴代の神学者たちによって脈々と受け継がれてきた説教集。20世紀にトーマス・F. トーランスによって現代語版として再編集され、21世紀に決定版として復刻。スコットランドの長老教会の聖餐論の核心を成す〈奥義〉、初邦訳!

目次


初版(1958年)への序文
2005年版への序文
はじめに キンナードのロバート・ブルース略伝 ロバート・ウドロー
国王ジェームズ6世への書簡(献呈の辞)

五篇の説教
1 サクラメント全般について
2 主の晩餐の特徴 ㈠
3 主の晩餐の特徴 ㈡
4 主の晩餐への備え ㈠
5 主の晩餐への備え ㈡

訳者あとがき



訳者あとがき

 本書はRobert Bruce (Thomas F. Torrance ed.)“ The Mystery of Lord’s Supper,” Rutherford House & Christian Focus, 2005. の全訳です.本書は当時,スコットランド神学界を牽引した代表的な神学者の一人,トーマス・F. トーランスの編纂によって,1958 年にJames Clarke 社から出版され,その後しばらく絶版状態でしたが,21 世紀に入り,2005 年にRutherford HouseとChristian Focus 社が共同の出版元となり,これまでのハードカバーからペーパーバックの廉価版に新装再版されました.

 日本では著者のロバート・ブルースについてはほとんど紹介されたことがなく,『キリスト教大辞典』(教文館より刊行)にもその名の記載はありません.また,現在進行中の同辞典の改訂版に新たに追加される予定もないため,日本の多くの教会関係者にとっては「知る人ぞ知る」人物です.しかし,そうした日本の現状とは裏腹に,近年,ブルースの聖餐論と説教は母国スコットランドで再評価され,特に2005 年の再版である本書に序文を寄稿したデヴィッド・シールの貢献によって,次の2冊の説教集が次々に刊行されました.

 ・Robert Bruce,(David C. Searle Tr. & Ed.)“ The Way to True Peace and Rest: Six Sermons on Hezekiah’s Sickness Isaiah 38;1-22” The Banner of Truth Trust (Puritan Paperbacks), 2017.
 ・Robert Bruce,(David C. Searle Tr. & Ed.) “Preaching Without Fear or Favour: Previously Unpublished Sermons on Hebrews 2”, Christian Focus, 2019., Christian Focus, 2019.

 また,訳者がかつて『長老教会の大切なつとめ』(一麦出版社,2010 年)を翻訳した,スコットランド自由教会の教義学者ドナルド・マクラウド(Donald McLeod)の近書“ Therefore the Truth I Speak: Scottish Theology 1500-1700”(Mentor, 2020.)で,彼は全13 章の構成のうち,第6 章をロバート・ブルースひとりに焦点を当てて論じています.

 このように近年,母国スコットランドで再評価されているロバート・ブルースの代表作である本書を日本語で刊行できることをとても嬉しく思います.本書が日本におけるスコットランドの宗教改革研究の進展に多少でも寄与できれば幸いです.特に,聖餐をめぐる理解が地滑り的に崩れつつあるここ数十年間の日本のプロテスタント教会においては,本書により,スコットランドの長老教会の歴史に深く浸透した聖餐論をとおして,聖餐の意義を再確認し,学び直すことは非常に意義のあることだと確信します.

 さて,本書は彼が実際に語った5 篇の説教です.編集者のトーランスはこの説教集について,序文でこう述べていました.「神学生としてエディンバラ大学のニュー・カレッジに入学してからも,H. R. マッキントッシュ教授の強い薦めもあり,この説教集をより深く学ぶ機会が与えられました.マッキントッシュ教授自身が講じていた主の晩餐に関する講義内容の多くの部分が,ブルースの説教から多くの示唆を得たものであり,スコットランド教会におけるサクラメントの伝統のまさに核心部分として,これまで以上にそれらを大切にすべきことを教わりました」.この引用から,トーランスが「スコットランド教会におけるサクラメントの伝統のまさに核心部分」としてこの説教集で示される聖餐論を非常に高く評価しているのがわかります.

 さらに,マッキントッシュ教授への言及がみられるように,実はエディンバラ大学ニュー・カレッジの歴代の神学教授たちが,本書『主の晩餐の奥義』と深く関わってきました.この説教集は,初めて出版された1590 年以降,さまざまな編纂者のもとで出版され続けてきました.スコットランドでは,1843 年にウィリアム・カニンガム(William Cunningham: 1805-61 年)によって,さらに1901 年にはジョン・レイドロー(John Laidlaw: 1832-1906年)によって刊行されていますが,二人ともエディンバラ大学のニュー・カレッジ(神学部)の教授でした.こうした経緯からも,先のトーランスの引用が示すように,ニュー・カレッジに入学した神学生たちが代々と教わってきた聖餐論は,ブルースから少なくない影響を受けていたものと考えられ,後にトーランスが編纂者になったのも,そうしたニュー・カレッジの学統の必然だったと言えるでしょう.

 ブルースは著作を次々に生み出す執筆家ではなく,説教を語り続け,教会と共に生きた牧会者でした.『主の晩餐の奥義』も聖餐について論じた「神学論文」集ではなく,セント・ジャイルズ教会の説教壇から一般の教会員に語られた説教です.16 世紀という宗教改革時代のブルースの貢献を知るためには,本書の主題となっている「聖餐」の文脈からだけでなく,説教者としての「説教」の文脈から捉えていく必要があります.たとえば,17 世紀前半のスコットランド教会において最も重要な役割を担った牧師アレクサンダー・ヘンダーソン(Alexander Henderson: 1583-1646)は,ブルースの説教と深い縁がありました.ヘンダーソンは,1614 年頃までは,主教制度支持者の一人とみなされていました.彼は1614 年に牧師としてルーチャーズ教会に着任したものの,この人事は長老派の有力者たちが願っていたものではありませんでした.そのことで苦悩していたこの牧師は,ある日,秘密裏にブルースの説教を聞きにフェルガンに足を運び,そこでブルースが語る説教を聴いたのがきっかけで,決定的に長老派に回心したと言われています.これは一例ですが,等しく説教の務めを担う同労者からの「説教者」としてのブルースの評価が非常に高いことは,本書の序文に記された証言からもはっきりと窺えます.もっとも,大学での神学の学びを終えたばかりのブルースが,改革者ノックスが牧師を務めたセント・ジャイルズ教会に牧師として招聘されたことそれ自体が,彼に具わる説教の賜物の豊かさを雄弁に物語っているでしょう.宗教改革後のスコットランド教会史において重要な役割を担った説教者ロバート・ブルースが,当時の一大論争をひき起こした聖餐(主の晩餐)に関して,教会員に向けてどのように説教をしたのか,またその説教の内容が,編纂者であるトーランスをして,上記のとおり「スコットランド教会におけるサクラメントの伝統のまさに核心部分」とまで言わしめたのかを,読者諸氏は本書から読み取り,感じ取ることができるのではないでしょうか.なお,説教として語られた内容であることを考慮して訳文は口語調で整えました.そして,本文中での聖書引用は聖書協会共同訳(2018 年)からのものであることを申し添えておきます.

 私事ですが,一麦出版社からの訳書の刊行も本書で10 冊めを数えます.振り返れば,それらすべての「訳者あとがき」で言及してきた日本基督教団大阪南吹田教会牧師の秋山英明先生には,今回も事前に訳稿に目をとおしていただき,貴重な助言を数々いただきました.10 冊の節目に,20 年を超えても変わらない秋山英明先生の友情と献身に対し,衷心より感謝と敬意を申しあげます.なお,本書の訳文における至らない点はすべて訳者に帰すものであり,読者の皆様からの御叱正をお願いする次第です.

 今回も最後になりますが,著訳書の刊行に際しては常々御支援をいただいている一麦出版社の西村佳勝氏に,重ねて感謝を申しあげます.

 Soli Deo Gloria

2024年12月 仙台市にて
原田浩司


【著者紹介】
トーマス・F・トーランス
1913年中国の成都に生まれる。エディンバラ、オックスフォード、バーゼルで学んだ後、1940年スコットランド教会の牧師となる。1950年にエディンバラ大学で教会史の教授、1952年から組織神学の教授として活躍し、2007年に死去。

【訳者紹介】原田浩司
1973年群馬県生まれ。東北学院大学教養学部卒、東京神学大学大学院博士課程前期修了。日本基督教団富田林教会牧師を経て、英スコットランド自由教会大学留学。英グラスゴー大学より神学修士号(M.Th.)取得。2011年度より東北学院大学文学部総合人文学科助教、准教授を経て、現在は教授、および大学宗教部長、東北学院宗教センター主任を兼任。

出版:一麦出版社

発売/発行年月: 2025年4月
判型: A5
ページ数: 250頁

主の晩餐の奥義 ロバート・ブルースの説教

2,420円(本体2,200円、税220円)

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